内山融『小泉政権』(中公新書・2007)

小泉政権―「パトスの首相」は何を変えたのか (中公新書)

小泉政権―「パトスの首相」は何を変えたのか (中公新書)

事実

参院選を前に、前政権である小泉内閣の功罪を振り返るのが本書である。本書では、小泉首相が在任中にやったことが、要を得てまとめられている。

新聞を読めば書いてあったはずの事柄なのであるが、意外に忘れているので、総復習に役立つ。文章も読みやすい。

評価

しかし、本書が小泉政権に対して与えている評価には、疑問がある。

著者である内山氏は、「新古典派経済学に基づくアイディアが、財政赤字の削減は民間活力の増大を通じて経済成長という恩恵をもたらすことを示した」(p204)として、小泉政権における新自由主義的な経済政策を評価している。その弊害としては「格差問題」が生じたことがよく指摘されるのであるが、内山氏は「ジニ係数」の推移のデータに基づいて反論している。「格差の拡大は、小泉改革以前から進行していたと考えられ」、むしろ小泉改革中盤には格差の改善すら観察されたのだ、と(p206)。

これに対して、小泉内閣外交政策については、内山氏は「戦略性を欠いていた」と厳しい批判を与えてる。すなわち、小泉首相靖国神社参拝を続けたことにより、対中・対韓関係が阻害され、首脳間外交がストップした上に、企業の対中投資環境に影響を与えるなど、経済的な利益を逸失したという(p210)。だが、先ほどとは異なり、靖国参拝がいかほど対中投資の停滞を招いたかについては、具体的なデータは示されていない。それゆえ、説得力に欠ける。

新古典派には好意的に、だが靖国参拝には否定的にという立場を、内山氏がとるのは自由である。だが、そのような著者個人の立場が、「小泉政権に対する評価」の中に紛れ込んでいる印象は拭えなかった。