涼宮ハルヒとオタクの欲望

hiranoaya_daisuki2007-07-07

 涼宮ハルヒは、オタクの欲望を象徴していると思う。

 周知のごとく、ハルヒの登場時のセリフは、「宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところに来なさい」である。ハルヒは普通の人間には興味を示さない。まだ見ぬ「宇宙人、未来人、異世界人、超能力者」との邂逅を求めている。
 それは、あたかも「三次元なんかに興味ねーよ」(http://www.geocities.jp/pugera3d/)とばかりに現実の女性を拒絶して、「メイドロボ」だとか「ネコミミ少女」だとか「血の繋がらない妹」とかいった異形の存在との出会いを夢想するオタクのように。

 しかし、現実にはそんなものは存在しない。だから、ハルヒはいつも「憂鬱」なのだ。オタクたちも、「理想のメイド」や「理想の妹」と出会うことはない。薄汚い三次元ビッチが跋扈する現実世界において、オタクの居場所はない。オタクもまた憂鬱である。

 ハルヒの「憂鬱」が一定限度を超えたとき、「閉鎖空間」と呼ばれる異世界が発生する。薄暗い閉鎖空間における創造主は、ハルヒに他ならない。閉鎖空間では「神人」と呼ばれる青い巨人が、現実を模した空間を暴れ回りそれを破壊していく。
 現実世界に苛立つオタクたちが逃げ込んだのは仮想世界であった。仮想世界の電脳空間において、オタクたちは、傍若無人に振る舞うことができるのである。そしていまやその勢力は仮想空間にとどまらない。彼らの欲望は、かつて電気街であった「秋葉原」を破壊し、彼らの帝国である「アキバ」を創造したのである。

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 このように、涼宮ハルヒの存在は、現代のオタクのメタファーとして描かれていると思う。しかし、涼宮ハルヒの物語は、そのようなオタクのあり方を肯定していない。

 「涼宮ハルヒの憂鬱」のラストで、ハルヒは主人公・キョンとともに閉鎖空間に迷い込む。元の世界に戻ろうと呼びかけるキョンの言葉をハルヒは拒む。

「いいのよ。もう。だってほら、あたし自身がとっても面白そうな体験をしているんだし。もう不思議なことを探す必要もないわ」(原作p283)。

 それでも元の世界に戻るべきだと説得するキョンに対し、ハルヒは口を尖らせてこう言うのだった。

「あんたは、つまんない世界にうんざりしてたんじゃないの? 特別なことが何も起こらない、普通の世界なんて、もっと面白いことが起きて欲しいと思わなかったの?」(原作p284)。

 いうまでもなく、「つまんない世界にうんざり」し、「もっと面白いことが起きて欲しいと」思っていたのはハルヒである。

 しかし、物語は、居心地の良い閉鎖空間にこのまま止まることを肯定しない。その契機は、キョンハルヒにキスをすることによって与えられる。キョンハルヒにキスをした瞬間、閉鎖空間は消滅し、二人は日常世界に帰還するのである。

 夢は醒めなければならない。ハルヒは、キョンのキスによって、再び退屈な日常に生きる勇気を与えられたのである(参照「結局、なんでキスしたら元の世界に戻ったのよ」http://d.hatena.ne.jp/kkobayashi/20060705)。